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ニュース・お知らせ

[2021.02.15]
長田渚左の『考え中』

2020東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、ついに辞任した。
問題の発端となった女性蔑視発言から、火に油を注いだ謝罪会見まで、一連の言動を見聞きした私の率直な感想は「だから言わないこっちゃない」だった。物事の本質を語るときに森氏ほどブレる人はいないと長く思ってきたからだ。
彼の失言でもっとも心に残っているのが、2003年6月の鹿児島市で開かれた討論会での発言だ。
「子どもを一人もつくらない女性が、自由を謳歌して楽しんで年をとって、税金で面倒をみなさいというのは本当におかしい」
あまりの”びっくり発言”に私はそのフレーズを丸ごと暗記してしまったほどだ。
アスリートに対しても、忘れられない発言がある。2016年7月に行われたリオデジャネイロ・オリンピック日本選手団壮行会の来賓挨拶の一節。
すでに2020年大会の組織委員会の会長だった森氏は「国歌も歌えないような選手は、日本の選手ではない」と発言。さらに「表彰台に立ったら、声を大きく出して、国歌を歌ってください」と選手たちに呼び掛けた。
たぶん森氏は日の丸のついたスーツに身を包んだ選手たちを、激励するだけのつもりだったのだと思うが、その認識の低さに、正直、呆れてしまった。
確かに昔はオリンピック憲章に『国旗』『国歌』と明記されていたが、過熱するメダル争いなどを理由に、オリンピックは本来、チームや個人で競うものという本質の理論に戻して『選手団の旗』『選手団の歌』に変更された。
だから、すでに30年も前からオリンピックの表彰式で流す歌は『国歌』ではない。極論するなら、国際オリンピック委員会(IOC)が承認すれば、日の丸の中の赤い球を黄色いピカチュウにしてもOKだし、表彰式で流す歌はサザンオールスターズの『勝手にシンドバット』でも良いのである。
そして、そもそも選手に「歌ってください」と強制すること自体がおかしい。1964年のオリンピックを題材にした市川崑監督の映画『東京オリンピック』の中で、『君が代』は3度流れるが、柔道重量級の猪熊功氏、バレーボール”東洋の魔女”の河西昌枝主将、体操男子個人総合の遠藤幸雄氏の3人の金メダリストは、一人として大きく口を開けて歌ってなどいない。歌うか、歌わないかは、ずっと前から個人の自由なのだ。

政治家は言葉で伝えることが、とても重要な仕事なのだから、事前にしっかりと勉強し、いつ、どんな場面で、何をどう伝えるかを準備しておかなればならない。だから壮行会での森氏のあまりに不勉強な発言を受けて、私は自身のコラム『考え中』で、オリンピックについて家庭教師を志願していたのだが……。
数年前に森氏が刊行した『遺書 東京五輪への覚悟』の中で、スポーツと体育の違いを理解されていないことも気になっていた。
出版元が森氏に一言伝えるべきだと思ったが、おそらく気づいても言えなかったのだろう。「これは違います」「おかしいです」と言い出せない空気。それは、今回の女性蔑視発言での周囲の反応とも重なる。

今更ではあるが、私が知る限りスポーツ界に森氏を悪く言う人はいなかった。 ある複数の競技関係者から聞いた話だが、たとえば何か問題が起きて「困りました。何とかしていただけないでしょうか」と森氏に相談に行くと、必ず助け舟を出してくれたという。首相経験者としての権力を武器に、スポーツ界のさまざまな問題に対処してきた。そうやって森信者を増やしていったのだろう。やがて森氏は森様となり、いつしか意見できる人のいない『裸の王様』になっていったように思う。
人が良いのか、サービス精神が旺盛なのか、森氏はスピーチでウケを狙おうとする傾向があり、それがつい暴走して取り返しのつかない失言に至ってしまう。「女性の多い会議は長くて困る」のフレーズも、会場にいた人たちのウケを狙って出た言葉だと思う。だから「わきまえておいでで……」の上から目線の発言も含めて、これほど批判されるとは本人は夢にも思わなかったのだろう。
失言というものは、どこからか降って湧くように出るものではない。常日ごろから心の中で思っていることが、何かのきっかけで噴出してしまう。それが怖いところだ。
昭和の時代の古い意識を変えられない森氏のようなリーダーは、日本社会にもまだ多い。だから、森氏のような上司のもとで仕事をされている方は、今回の一件をきっかけに、絶えずセンサーをピコピコさせて「今のはまずいです」「そうは受け取られません」と、勇気を出して日ごろから苦言を呈しておくべきだと思う。それは上司のためでもあるのだ。
もともと森氏は他意や悪意のある方ではない。気づいていないだけだから、私は5年前に『家庭教師にゆきます』とネットやラジオで呼び掛けた。だから今回の辞任を受けて、ついに伝わらなかったなあ……という諦念がある。
ちなみに私は83歳の森氏からバトンを受ける新会長には、政治家ではなく、実行力のあるスポーツ界を代表する女性であってほしいと願っている。日本は女性差別の国ではないと世界にあらためて発信することが重要だと思うし、男社会の日本の古い体質を、東京大会から変えていくという国民への強いメッセージにもなると思うからだ。そして、オリンピックは何よりスポーツを通じた平和の祭典なのだから。
日本オリンピック委員会(JOC)の理事を務める山口香氏、小谷実可子氏、高橋尚子氏、スペシャルオリンピックス日本の理事長としても活躍している有森裕子氏、パラリンピックの金メダリストで日本パラリンピアンズ協会の会長を務める大日向邦子氏ら、人材は決して少なくない。

さて記念すべきスポーツゴジラ第50号が、3月5日に刊行されます。コロナ禍による閉塞感の中、お花見もままならないと思われますので、美しいものが見たいという欲求に応えるために”美とスポーツ”を今回のテーマにしました。
都営地下鉄の各駅で、ぜひお手にとってください。

スポーツゴジラ編集長 長田渚左

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